2022年3月27日日曜日

『ナインフォックスの覚醒』 ユーン・ハ・リー

長きに渡る帝国の腐敗に、まだ何者でも無い主人公が巻き込まれて行く、というテンプレートなSFスペースオペラ。三部作の第一部では目新しさは見えず

■帯より転載
数学暦がすべてを支配する宇宙
若き女性軍人と、叛逆の天才。
ふたりは物理法則を超越する科学体系<暦法>を駆使して
巨大要塞の攻略に挑む–
新鋭の魔術的本格宇宙SF!
ローカス賞受賞
ヒューゴー賞・ネビュラ賞候補

■感想
「長きに渡る帝国の腐敗に、まだ何者でも無い主人公が巻き込まれて行く」という骨子に、近年のジェンダー思想や社会情勢等を組み込んだ本作は、どうしても同じ構造を持つ、2013年に発表されたアン・レッキーの傑作<叛逆航路シリーズ>と比べてしまうことになります。
2010年代ミリタリースペースオペラとしての同時性という側面を考慮しても、面白いけど斬新さ・ハッとする箇所は無かった読後感です。
「数学と暦により物理学を超越する世界」は欧米読者には目新しく感じたのかも知れませんが、アジア圏の読者には「易」の延長線上、または西洋科学では表せない東洋的世界観に近く感じてしまうのが要因の一つかも知れません。
第二・三部と続く中で、驚きを期待したいと思います。
(NINEFOX GAMBIT by Yoon  Ha Lee Copyright 2016. 2020年発行)

★★★


■六連合シリーズ(2022年3月現在)
・『ナインフォックスの覚醒』(Copyright 2016. 2020年発行) ローカス賞
・『レイヴンの奸計』(Copyright 2017. 2021年発行) 
・『レヴナントの銃』(Copyright 2018. 2022年発行予定)

2022年3月19日土曜日

『ロックイン-統合操作-』 ジョン・スコルジー

ジョン・スコルジー作品には外れ無し。手が届きそうな絶妙な距離感の近未来・世界感で起きるミステリー

■帯より転載
疫病が
蔓延した未来
+ニューラルネットワーク
+不可解な殺人事件
ロボットを操作する新人FBI捜査官が
直面した奇妙な事件とは?リアルな
想像力で描くパンデミック後の世界。

■感想
2014年に書かれた本作品ですが、コロナ禍が2年近く続く2022年に読むと、作品内で描かれているパンデミック後の世界観への共振が増し多様な気がします。
意識はあるのに体が動かなくなる病状が世界中に蔓延。
最初の発生から20年後、ヘイデンと呼ばれる患者たちは脳にニューラルネットワークを埋め込み、専用オンライン空間を利用と、現実世界を代理で動くロボット「スリープ」を操ることで通常の生活を送れるようになった・・・。
これらのギミックの絶妙な距離感(20・30年後には手が届きそうなテクノロジー)が、作品世界を私たちの現実と地続きのように錯覚させます。
ヘイデンである主人公シェインはスリーブを操り、先輩FBI捜査官と共に殺人事件を捜査していくのがストーリーの軸となります。
ただし、ミステリーとしての犯人・犯行動機の解決は従であり、ストーリーが進展していく度に、その世界観が一つ一つ膜が剥がされ明確になっていく=SFとしての世界観の強度が増すこと(主)に爽快感を得ることができます。
(LOCK IN by John Scalzi Copyright 2014. 2016年発行)

 ★★★★