2021年11月20日土曜日

『ソングマスター』 オースン・スコット・カード

 読み進めると「あれ?この本、意外と面白い」と思うと共に、著者カードの根底にある「愛」を最も感じる作品

■裏表紙より抜粋
人々の心の琴線に触れ、凍り付いた涙さえ溶かし、心を奥底からゆさぶる“魂の歌い手”ソングバード、全銀河をその歌声で魅了するといわれるアンセットとは何者なのか?愛と友情と夢を高らかに謳いあげる感動の名作。

■感想
カードの作品を発表・翻訳順ではなく、手に入れた順に読んでいる私にとって、本作の出だしは『道を視る少年』をはじめとした「特殊な力を持つ少年が主人公が成長していくファンタジーものの一つ=期待できない」と訝しげに読んでいました。
(ちなみに、本作は著者の第三長編にあたります)
しかし、読み進めると「あれ?この本、意外と面白いかも」と変わりに、遂には読み進めるペースが上がり最後まで読み切ってしまう面白さがありました。
『消えた少年たち』では若干の違和感を覚えたモルモン教徒を下敷きとした愛情でしたが、本作では『エンダーのゲーム』における姉ヴァレンタインの深い愛情の原型が見えると共に、著者の作品の中ではバランスよく・最も大きく・強い「愛」を感じ、作者の根底に流れるものであることが分かります。
そして、何より1巻でまとまっていることもお薦めのところ。
著書のストーリーテリングや伏線の張り方・回収の上手さをコンパクトに堪能することができます。
(SONGMASTER by Orson Scott Card, Copyright 1978,1979,1980. 1984年発行)

★★★★

2021年11月4日木曜日

『ネットワーク・エフェクト』 マーサ・ウェルズ

アニメ絵の表紙に躊躇すると後悔します!初心者にもお薦めしたい2020年代のSFの魅力とテーマが詰まった警備ユニットの冒険譚

■帯より転載
ヒューゴー賞・ネビュラ賞・日本翻訳大賞受賞
『マーダーボット・ダイアリー』待望の続編
「やれやれ、
人間は勝手に死にがちです」
人間苦手、ドラマ大好きの”弊機”が帰ってきた!

■感想
本書は《マーダーボット・ダイアリー シリーズ》の第5章にあたる作品です。
主人公である弊機の成長も楽しみの一つのため、必ず第1~4章にあたる『マーダーボット・ダイアリー』から読むことをお勧めします。
本作を読み終えた第一声は「早く続きが読みたい!」です。
しかし、前半は第1~4章と同じく、警備対象である人間たちが人間らしく動いてしまうか故のトラブルに主人公の弊機(人型警備ユニット)も巻き込まれていく展開に、思わずパターン物では、と少し落胆しかけます。
ところが、後半の展開は思わず「疑ってすみません」と謝りまくりです。
思わぬキャラクターの登場、そう来たか!と唸ってしまう伏線回収、そこまで考えてシリーズタイトルを付けていたの?!等々、SFのエンターテインメントを存分に堪能することができます。
また、2010年代のSF作品に見られる「現代の世界情勢や課題を未来の世界で描く」傾向(どの時代の作品も同時性を持つという側面は普遍なのかも知れませんが)は、本作にもさり気なく下敷きとして世界観を構築していますが、表面を覆う弊機の活躍(面白さ)に目を奪われ、振り返れば感じる程度なのが良いところでもあります。
第6章『FUGITIVE TELEMETRY』は2022年刊行予定と巻末に記載されていたので、来年が待ち遠しい限りです。
(NETWORK EFFECT by Martha Wells Copyright 2020. 2021年発行)
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本作は2021年のヒューゴー賞を受賞したことで、ヒューゴー賞・ローカス賞・ネビュラ賞のトリプルクラウンに輝く。(2022/5/22追記)

★★★★