2020年12月31日木曜日

『道を視る少年(上・下)』 オースン・スコット・カード

ファンタジーの皮を被ったSF?!続きが気になる少年リグの異世界冒険譚

■帯より転載
『エンダーのゲーム』
の著者が放つ
異世界冒険SFの金字塔
人の軌跡を視ることができる特殊能力を持つ
少年リグの波乱万丈の冒険を描く!

■感想
映画『エンダーのゲーム』が日本で公開(2014年)されたのに併せて翻訳・出版されたのが本作です。
当時、久々のカードの新作だ!と嬉しくなって、書店で手にしたのを覚えています。
あれから6年ほど経ちますが、残念ながら続巻は未訳のままです。
序盤は『第七の封印』(Copyright 1987, 1993年発行)や《帰郷を待つ星シリーズ》(Copyright 1993, 1996年発行~)を思い出させる、ガーデン星・リグを主人公としたファンタジー(異世界冒険)ですが、各章の冒頭に描かれる地球人・ラムの物語と徐々にリンクを始めることで、未来・宇宙SFの様を感じさせます。
リグの冒険が一つの壁を越え、主人公たちの能力がどう開花されていくのか等、さあこれから!と言うところで、「続きは次回に」となります。
続きが気になってしょうがない・・・。
(FINDER PATH by Orson Scott Card, Copyright 2010. 2014年発行)

★★★

 

■THE PATHFINDER Series
・『道を視る少年』(Copyright 2010. 2014年発行)
・『RUINS』(Copyright 2012. 未訳)
・『VISITORS』(Copyright 2014. 未訳)

2020年12月26日土曜日

『第七の封印』 オースン・スコット・カード

一人の少女が世界を救うために旅に出る・・・異世界冒険SF

■裏表紙より抜粋
神話と伝承に彩られた惑星イマキュラータ。太古の預言者はペイシェンスこそ人類の救世主であり、神を産む聖母になると告げていたのだ!父の死後、放浪の旅に出た彼女だが、その行く手には預言の成就をはばむべく恐るべき敵が待ち受けていた・・・

■感想
和訳・出版された著書の作品の中では、(おそらく)唯一の女性主人公です。
ざっくり言うと『指輪物語』(J・R・R・トールキン, 1954年)に、モルモン教(キリスト教の一派)の処女懐胎を重ね合わせた感じです。
本作はほぼファンタジーであり、キャラクターの造形やストーリーテーリング、(好みは分かれそうですが)モルモン教を背景とした哲学的・普遍的なメッセージが、著者の魅力と改めて感じました。
(WYRMS by Orson Scott Card, Copyright 1987. 1993年発行)

★★★

2020年12月24日木曜日

『帰郷を待つ星 地球の呼び声』 オースン・スコット・カード

全5巻の内1・2巻のみ和訳され、これからやっとSFらしくなるかも知れない3巻以降は未訳という生殺し

■帯より転載
兄弟とともに花嫁を探せとのお告げを受けた少年ニャーファイは、独裁者ムウズーの侵略に揺れる都市バシリカを訪れた。そのお告げに隠された、コンピューターの真の思惑とは?

■感想
本作は《帰郷を待つ星シリーズ》全5巻の2巻目で、起承転結の承にあたります。
次巻の題名は『THE SHIPS OF EARTH』であり、宇宙船的な物が登場しやっとSFらしくなりそうな予感がしますが、3~5巻は未訳のため、モルモン経典を下敷きとしたファンタジーのまま、生殺しとなります。
本作のクライマックスの展開は、それまでの伏線回収も含め、さすかカードというものです。
主人公ニャーファイと兄エルイェマークと幻視者リューエットの造形・関係性が、『エンダーのゲーム』(Copyright 1985. 1987年発行)におけるエンダーと兄ピーターと姉ヴィッキンに既視感を覚えるところです。
(THE CALL OF EARTH by Orson Scott Card, Copyright 1993. 1996年発行)

★★★

2020年12月19日土曜日

『帰郷を待つ星 地球の記憶』 オースン・スコット・カード

モルモン経典を下敷きとしたファンタジー

■帯より転載
故郷の星を忘れた人々
コンピューターが統括する植民惑星に生きる人類を描く、人気作家カードの新たなる未来史!

■感想
帯には「コンピューターが統括する植民惑星」とありますが、本書はSF的なガジェットは皆無であり、コンピュータの声は人々には神の声と認識されており、世界観・言動は中世ヨーロッパをイメージさせるほぼほぼファンタジーと言っても過言ではありません。
1992年は本書に加え、モルモン教徒の一家に起こる奇妙な出来事を描いた『消えた少年たち』が上梓されおり、モルモン教が作者に大きな影響を与えているであろうと推測されます。
唐突感のある神(コンピュータ)の介在はあるものの、著者の圧倒的なストーリーテーリングを楽しむことができます。
(THE MEMORY OF EARTH by Orson Scott Card, Copyright 1992. 1994年発行)

★★



■帰郷を待つ星シリーズ
・『帰郷を待つ星 地球の記憶』(Copyright 1992. 1994年発行)
・『帰郷を待つ星 地球の呼び声』(Copyright 1993. 1996年発行)
・『THE SHIPS OF EARTH』(Copyright 1994. 未訳)
・『EARTHFALL』(Copyright 1995. 未訳)
・『EARTHBORN』(Copyright 1995. 未訳)

2020年12月17日木曜日

『友なる船』 マキャフリー&ボール

1作目から約200年後を舞台に新たなヒロインが宇宙を駆け巡る

■裏表紙より抜粋
いよいよ今日が初飛行の船、ナンシア。不安いっぱいの彼女にさっそくさっそく5人の若者が乗り込んできた。みな新卒で華族と呼ばれる良家の出。なのに彼らの会話は尋常ではない。欲に目がくらみ、何やら企んでいるやくざな連中だった。

■感想
本作は《歌う船シリーズ》の2作目(日本語版は4作目として出版)であり、原作者アン・マキャフリーとマーガレット・ボールの共著となります。
1作目から約20年後に出版された続巻になり(物語上では1作目から●年後の未来)、様々なギミックはバージョンアップ、主人公も新たになっていますが、骨子となる「金属の殻の中に脳を収め、神経の一本一本を制御装置に繋げられ、チタニウムの身体=宇宙船を操る、サイボーグ船の乙女」は変わらず、物語の情感を高めています。
確かな骨子のため、十分に面白いのですが、20年振りなのか共著のためなのか、切なすぎるロマンチックさは少し1作目に軍配が上がります。
(PARTNERSHIP by Anne McCaffrey & Margaret Ball, Copyright 1992. 1995年発行)

★★★

2020年12月13日日曜日

『歌う船』 アン・マキャフリー

乙女の心とチタニウムの身体を持つサイボーグ宇宙船の青春とも言える旅路。『夏への扉』に勝るとも劣らないロマンチックな古典SF

■裏表紙より抜粋
この世に生まれ出た彼女の頭脳は申し分ないもの、ところが身体の方は機械の助けなしには生きていけない状態。<中央諸世界>は彼女を金属の殻の中に封じ込め、宇宙船の身体をあたえた。優秀なサイボーグ船の誕生・・・彼女は嘆き、喜び、愛し、歌う

■感想
本作は6編から構成される連作短編集です。
冒頭の短篇の初出は1961年、いまから約60年前にも関わらず、読了後は『夏への扉』(ロバート・A・ハインライン, Copyright 1966)に勝るとも劣らないロマンチックな余韻に浸ることができます。
身体が不自由に生まれたが、頭脳明晰のため、殻人(シェルパーソン)として生きることになった主人公ヘルヴァ。
金属の殻の中に脳を収め、神経の一本一本を制御装置に繋げられ、チタニウムの身体=宇宙船を操る、サイボーグ船となります。
生まれつきの不自由さと宇宙船が持つ飛躍的な移動の自由のジレンマをベースに、一人の乙女であるヘルヴァの言動・成長に一喜一憂させられます。
古典SFの傑作として、もっと多くの人に読んでもらいたい一作です。
(THE SHIP WHO SANG by Anne McCaffrey, Copyright 1969. 1984年発行)

★★★★


■歌う船シリーズ
・『歌う船』(Copyright 1969, 1984年発行)
・『旅立つ船』(Copyright 1992, 1994年発行) マーセデス・ラッキーと共著
・『戦う都市』(Copyright 1993, 1995年発行) S・M・スターリングと共著
・『友なる船』(Copyright 1992, 1995年発行) マーガレット・ボールと共著
・『魔法の船』(Copyright 1994, 1995年発行) ジョディ・リン・ナイと共著
・『伝説の船』(Copyright 1996, 1998年発行) アン・マキャフリー原案, ジョディ・リン・ナイ著
・『復讐の船』(Copyright 1997, 1999年発行) アン・マキャフリー原案, S・M・スターリング著

2020年12月9日水曜日

『接続戦闘分隊 暗闇のパトロール』 リンダ・ナガタ

近未来ミリタリーSFは表層だけではないかと期待感を募る序章

■帯より転載
戦士たちよ
天空からの
指令に従え!
超AI時代の
近未来
戦争SF

■感想
1個分隊の上空を舞うドローンからの視点共有、バックオフィスからネット回線でリアルタイムに下る指令、眼球に組み込まれたディスプレイ等、現実の技術をアップデートしたギミックが特徴の近未来ミリタリーSF。
さらに、リアリティーショーやクラウド上に潜む進化したAI等、現実世界でもそう遠くない世界観を背景にすることで、ミリタリー物は表層であり、これから何が起きるのかと期待感を募る序章です。
原題も「First Light」(夜明け)ですから。
ただし、続刊以降は未訳となります。
(THE RED First Light by Linda Nagata, Copyright 2013. 2018年発行)

★★★ 


■THE RED Trilogy
・『接続戦闘分隊 暗闇のパトロール』(Copyright 2013. 2018年発行)
・『THE TRIALS (Book 2)』(Copyright 2015. 未訳)
・『GOING DARK (Book 3)』(Copyright 2015. 未訳)

2020年12月6日日曜日

『共和国の戦士』 スティーヴン・L・ケント

戦士として均一に培養された何千人のクローンの中で育てられた主人公

■帯より転載
この国は
おれが守る!
迫真のミリタリィSF
最強のクローン兵士
リベレーターとは!?

■感想
銀河系各地に進出した人類が、均一化された戦闘力を持った戦士としてクローンを何千体と毎年生み出し、地球各地の孤児院で育てることにより個性を持たせる点が本作のオリジナリティです。
自然生まれとの対比、クローン・改良版クローン・伝説のクローンが登場することによる少年マンガのようなパワーアップ等が、近未来ミリタリーSFに深みを添えます。
続刊以降、クローンの地位向上や自然の生まれとの争い等の展開に広がりそうな序章となります。
(THE CLONE REPUBLIC by Steven L. Kent, Copyright 2006. 2010年発行)

★★★


■ROGUE CLONE Series
・『共和国の戦士』(Copyright 2006. 2010年発行)
・『共和国の戦士2: 星間大戦勃発』(Copyright 2006. 2011年発行)
・『共和国の戦士3: クローン同盟』(Copyright 2007. 2011年発行)
・『The Clone Elite』(Copyright  2008. 未訳)
・『The Clone Betrayal』(Copyright 2009. 未訳)
・『The Clone Empire』(Copyright 2010. 未訳)
・『The Clone Redemption』(Copyright  2011. 未訳)
・『The Clone Sedition』(Copyright 2012. 未訳)
・『The Clone Assassin』(Copyright 2013. 未訳)
・『The Clone Apocalypse』(Copyright 2014. 未訳)