2020年7月27日月曜日

『航空宇宙軍史・完全版(一・二・三・四・五)』 谷 甲州

多くのSFはスペースオペラであり、現実の宇宙戦争はこうなるはずと思わせる、計算に裏打ちされた日本ハードウェアSFの傑作

■帯より転載
この長大な物語には、
人間が宇宙で生きることのすべてが
描かれている。
大幅な加筆修正、新解説・新装幀で贈る完全版刊行

■感想
本作は、航空宇宙軍の発足~外惑星連合との2度に渡る太陽系内戦争~汎銀河連合との恒星間戦争へと展開していく一大戦記です。(5巻計約3,500ページのボリューム)
一巻を読み始めすぐさま衝撃を受けます。
今まで観てきたSF映画やアニメ、多くのSFはスペースオペラであり、ファンタジーだったのではないかと思ってしまう程です。
物語時点での太陽系内の各惑星の位置と距離を元にした戦略、レーザー砲やミサイルが簡単に当たるのではなく戦艦の軌道に射出される機雷による戦闘方法など、緻密な計算に裏打ちされたハードウェアSFを堪能することができます。
また、英雄一人が活躍するのではなく、ある時は末端の戦闘員、宇宙船司令官など実際に戦闘に従事する人々のエピソードが丹念に積み重なることで長大な歴史が紡がれていくため、よりリアルさが増していきます。
一~三巻における太陽系内宇宙戦争は珠玉の出来なのですが、五巻に登場する火の鳥的な存在(輪廻転生をSF的解釈として落とし込もうとしている)が緻密な世界観と相反するため残念でなりません。

■各巻タイトル
一 カリスト-開戦前夜-/タナトス戦闘団(2016年8月発行, 1988・1989年初出)
二 火星鉄道一九/巡洋艦サラマンダー(2016年10月発行, 1988・1989年初出)
三 最後の戦闘航海/星の墓標(2016年12月発行, 1987・1991年初出)
四 エリヌス-戒厳令-/仮装巡洋艦バシリスク(2017年2月発行, 1983・1985年初出)
五 完全版 五 終わりなき索敵(全)(2017年4月発行, 1996年初出)

一~三:★★★★
四:★★★
五:★★