2026年8月3日月曜日

『マーダーボット・ダイアリー システム・クラッシュ』 マーサ・ウェルズ

主人公である弊機(人型警備ユニット)のぼやきをはじめ、可愛く健気な行動原理に、頑張れ!という気持ちで最後の最後まで読むことができる冒険譚

■帯より転載
ヒューゴー賞・ネビュラ賞・日本翻訳大賞受賞シリーズ最新刊
弊機は壊れてしまいました」
ドラマ大好き、人間が苦手な
暴走人型警備ユニット“弊機”が
任務中に謎の障害発生!?

■感想
本書は《マーダーボット・ダイアリー シリーズ》の4冊目でありながら、2冊目『ネットワーク・エフェクト』の続編となります。
主人公である弊機(人型警備ユニット)のぼやきは相変わらずクスリと笑ってしまいますし、行動原理は可愛く健気であるため、最後の最後まで頑張れ!という気持ちで楽しむことができます。
ただし、登場キャラクターや企業などは2冊目と変わりがなく、後日談の域を超えていないため、1~3冊目はとても面白かったのに、というのが正直な感想です。
シリーズはまだまだ続くようなので、次作品を期待したいです。
(SYSTEM COLLAPSE by Martha Wells Copyright 2023. 2024年発行)

★★★

2026年7月27日月曜日

『プロジェクト・ヘイル・メアリー(上・下)』 アンディ・ウィアー

アメリカンフットボールの試合終盤に劣勢のチームが一発逆転をんらって投げる“神頼み”のロングパス=ヘイル・メアリー・パス。まさしく一か八かのプロジェクト

■帯より転載
映画化原作
2026年3月20日、映画公開!
主演|ライアン・ゴズリング
迫る太陽消滅の危機。全人類の未来は
ひとりの中学校の科学教室に託されたーー。

■感想
タイトル、ストーリーテリング、エンディングと三拍子揃った、著者3作品目にして最高傑作と呼んで良いかもしれません。
タイトルは、アメリカンフットボールの試合終盤に劣勢のチームが一発逆転をんらって投げる“神頼み”のロングパス=ヘイル・メアリー・パスからと、太陽消失の危機を乗り越えるまさしく一か八かのプロジェクトを描く本作にピッタリです。
前2作は主人公の一人称と三人称による構成で物語の奥行きを出していましたが、今回は現在の一人称と過去の一人称が交互に展開されていく構成で、謎が解き明かされていき、より主人公に感情移入できるようになっています。
また、夢落ちと同じくアイディアとしては凡庸な記憶障害が、現在と過去の主人公を行き来する要素として必然性を持っています。
そして、読者の想像を超える、そうきたか!と膝を打つエンディングに、十二分な読後感を与えてくれます。
(PROJECT HAIL MARY Andy Weir, Copyright 2021. 2026年発行)

★★★★★


2026年7月24日金曜日

『マッド・サイエンス入門』 堀 晃

ブラック・ホール、地震、ロボット、宇宙論などをテーマとした科学解説エッセイ集。発行から40年も経つのでさすがに古臭さは否めないがユーモアさは十分

■裏表紙より抜粋
科学をオモチャにし倒した、驚天動地、空前絶後の爆笑超科学エッセイついに登場!!

■感想
本書は古きよきマッド・サイエンスたちに敬意を示しながら、ブラック・ホール、地震、ロボット、宇宙論などをテーマとした13篇が収録された科学解説エッセイ集です。
発行から40年も経つので、技術の発達や科学などの解明が進み、いささか古臭さを感じてしまいますが、ユーモアさは今でもニヤリとしてしまいます。
また、各エッセイの最後には、作者による架空のSF作品のダイジェスト版が付いてるので、楽しむことができます。
(1986年10月発行)

★★

2026年7月23日木曜日

『アンドロイドの夢の羊』 ジョン・スコルジー

特別な羊を求めて敵味方入り乱れる冒険活劇SF。主人公が特別な羊を見つけてからの思いもよらない展開と収束は爽快

■裏表紙より抜粋
地球・ニドゥ族の貿易交渉の席上で事件がおきた。
戦争につながりかねないこの問題のため、ニドゥ族は代償として特別な「羊」の調達を要求してくる。期限が一週間。
凄腕ハッカーの元兵士クリークがこの羊探しを命じられるが、謎の宗教団体に追われ、反ニドゥ勢力の暗殺者に狙われるはめに。
そして、ようやく見つけ出した羊の正体とは……。

■感想
舞台は大銀河連邦に地球も加盟し、複数の異星人が地球に滞在する未来。
地球・ニドゥ族の戦争回避のため、主人公の凄腕ハッカーの元兵士クリークによる特別な「羊」探しが始まります。
特別な羊の正体が判明する納得感、そこから急速に展開される、謎の宗教団体、反ニドゥ勢力入り乱れる中、主人公の活躍に手に汗握り、エンディングは期待を裏切りません。
異星人の造形・宇宙船以外のギミックは現在から手が届きそうなテクノロジーであり、作品世界を地に足のついたものとしています。
(THE ANDROID'S DREAM by John Scalzi Copyright 2006. 2012年発行)

 ★★★

2026年7月21日火曜日

『火星の人』 アンディ・ウィアー

予期せぬ事故で火星に一人残された主人公。ユーモアとポジティブな性格が、本来であれば悲壮になりがちな物語をポップにし、一気読みさせる面白さ

■帯より転載
20世紀FOX映画化決定!
赤い惑星で展開される『ゼロ・グラビティ』のリアル
予期せぬ事故で火星に取り残された一人の宇宙飛行士。
彼は残る物資、自らの知識と技術を駆使して生き残れるのか!?

■感想
有人火星探査中、予期せぬ事故で火星に取り残された一人の宇宙飛行士、マーク・ワトニー。
不毛な赤い惑星に一人残されたマークが、限られた物資、自らの知識を駆使して生き延びるための苦闘(一人称)と、NASAによる救出作戦の立案実行(三人称)が並走する構成です。
そして、次から次へと起こる困難は突飛なことではなく、マークのちょっとしたミスや現在の技術で起こるべくして起きたもの、火星環境などから起こったものであり、本作にリアリティをもたらしています。
また、マークのユーモアとポジティブな性格が物語をポップにすると共に、マークに感情移入し、奮闘を応援するような感覚で、時間を忘れて一気読みすること請け合いです。
(THE MARTIN Andy Weir, Copyright 2011. 2014年発行)

★★★★

2026年7月20日月曜日

『アルテミス(上・下)』 アンディ・ウィアー

前評判に違わぬ面白さ。人類初の月面都市アルテミスを舞台に、不可能ミッションが主人公に次から次へ降り注ぐ

■帯より転載
20世紀FOX映画化決定
今度は月だ!
全世界累計300万部突破『火星の人』(映画化名「オッデセイ」)に続く待望の第二作。

■感想
人類初の月面都市アルテミス、6分の1重力下で主人公が次から次へと降り注ぐ不可能ミッションに夢中になること間違い無し。
直径500メートルのスペースに建造された5つのドームに2,000人の住民が生活するアルテミスという舞台背景がしっかりと設計されています。
その中で、合法/非合法び品物を運ぶポーターとして暮らす女性ジャズ・バシャラが、大物実業家から謎の仕事を受けることから、都市の未来を左右する陰謀に巻き込まれていきます。
その矢継ぎ早の展開に時間を忘れ、1日で上下巻を読んでしまいました。
(ARTWMIS A Novel by Andy Weir, Copyright 2017. 2018年発行)

★★★★


2026年7月17日金曜日

『時空いちびり百景』 かんべむさし 堀 晃

関西の地名を題材としたショートショートのため、関西圏以外の読者にはその土地ならではの空気感が掴めないのが残念

■帯より転載
宇宙初の関西SF!
毎日新聞連載「SFいちびり眼鏡」改題
笑いとロマンの地名づくし。
ショートショートがたっぷり105篇

■感想
あとがきによると本書は「毎日新聞の木曜夕刊の関西版に、かんべむさし、堀晃の交代執筆というスタイルをとりました。気がつけば、どう解釈してもSFではない作品をいくつか書いており、この本は堀とっては初のノンSFを書いた画期的な作品集となります」。
また、「いちびる」とは、調子に乗ってはしゃぐ。ふざける。やかましく騒ぎたてる。とのことです。(大阪ことば辞典より)
関西の地名を題材としたショートショートのため、関西圏以外の読者にはその土地ならではの空気感が掴めません。
そのため、関東圏の読者にとっては面白さが半減しており、残念です。
(1989年6月発行)

★★

2026年7月10日金曜日

『漂着物体X』 堀 晃

著者の魅力である、深淵の宇宙の美しさ、星・文明・生命の死生観という普遍的な成分が少ないため、やや古臭さを感じる短編集

■帯より転載
ハードSFの鬼才
鮮烈な筆致で描く
最新宇宙恐怖物語

■感想
本書は表題作「漂着物体X」をはじめとした13篇が収録された短編集です。
著者の魅力は、宇宙の深淵、星・文明・生命の死生観という普遍的なテーマを扱っているため、発表から30~40年を経ても古臭くなく、その美しい世界観にあります。
本書は残念ながら、その成分は少なめのため、いささか古臭さを感じてしまいます。
ぜひ、後年、シリーズものをまとめた『地球環』(2000年発行)や『遺跡の声』(2007年発行)を読んでいただき、著者の描く美しい世界観・普遍的なテーマに触れて欲しい限りです。
(1989年9月発行)

★★★

2026年7月7日火曜日

『太陽風交点』 堀 晃

表題作「太陽風交点」はSF好きなら必読。愛と死、宇宙の広大さと美しさを堪能できる傑作

■帯より転載
詩情豊かな名篇
第1回日本SF大賞受賞作!

■感想
本書は<宇宙遺跡調査員>シリーズ2篇(太陽風交点、遺跡の声)、<情報サイボーグ>シリーズ1篇(骨折星雲)、他7篇(イカルスの翼、時間礁、暗黒星団、迷宮の風、最後の接触、電送都市、悪魔のホットライン)が収録された著書の初短編集です。
とくに表題作「太陽風交点」はSF好きなら必読です!
死んだはずの恋人の再会、漆黒の宇宙空間に大輪の花を開いたような太陽ヨット、知的生命体とのファーストコンタクトなどと短編ながらも、SFの醍醐味が凝縮されています。
それと共に、ハードSFとしてその美しくも広大な宇宙規模を実際に自分が理解・想像できてるような没入感は、80年代当初、ハードコアSFの若き旗手と呼ばれた著者の力量を存分に味わうことができます。
後年、《宇宙遺跡調査員》シリーズをまとめた『遺跡の声』(2007年発行)、《情報サイボーグ》シリーズをまとめた『地球環』(2000年発行)が発行されていますので、各シリーズをまとめて読みたい方は、そちらで通読すると、よりそれぞれの世界観に浸ることができます。
(1981年3月発行)

★★★★★ 

2026年7月4日土曜日

『恐怖省』 堀 晃

消えゆく星、生命などの死生観が根底に流れる美しいハードSF短編集

■帯より転載
本格ハードSF
第一回SF大賞作家の
待望久しいスペース・オペラ!
SFを知ると科学が身近なものになる

■感想
本書は<宇宙遺跡調査員>シリーズ3篇(蜜の底、沈黙の波動、ペルセウスの指)、<情報サイボーグ>シリーズ4篇(恐怖省、過去への声、蒼ざめた星の馬、宇宙葬の後)、他1篇(コスモス・クロック)が収録されたハードSF短編集です。
どの物語も、消えゆく星、文明、生命などの死生観が根底に流れる美しさを堪能することができます。
後年、《宇宙遺跡調査員》シリーズをまとめた『遺跡の声』(2007年発行)、《情報サイボーグ》シリーズをまとめた『地球環』(2000年発行)が発行されていますので、各シリーズをまとめて読みたい方は、そちらで通読すると、よりそれぞれの世界観に没入することができます。
(1982年6月発行)

★★★★ 

2026年6月29日月曜日

『輝石の空』 N・K・ジェミシン

<十分に体系化された魔法は科学と区別ができない>と著者のインタビューにもあるようにファンタジーがSFとも読み取れるようになる面白さを持つ最終巻

■帯より転載
古代絶滅文明の巨大な力を求め
最後の闘いがはじめる
『第五の季節』三部作堂々完結!
3年連続ヒューゴー賞受賞&
ネビュラ賞・ローカス賞受賞

■感想
本書は『第五の季節』三部作の最終巻です。
数百年ごとに文明を滅ぼしてきた<第五の季節>を永久に終わらせ、世界を救おうとする母エッスン。
同じ力を用いて、ただ一人の愛する人を救うために世界を滅ぼそうとする娘ナッスン。
二人の旅路が交差する中、<十分に体系化された魔法は科学と区別ができない>と著者のインタビューにもあるようにファンタジーがSFとも読み取れるようになる面白さがあります。
(THE STONE SKY by N. K. Jemisin, Copyright 2017. 2023年発行)

★★★

2026年6月24日水曜日

『オベリスクの門』 N・K・ジェミシン

地殻を操ることができるオロジェンである母エッスンと娘ナッスンの物語が並走することで、地球、失われた月、石喰い、守護者、オロジェン、人間と役者が出揃う第二部

■帯より転載
数百年ごとに
文明が破滅する世界で
苛烈な運命を背負った者たちの
戦いが始まる
前人未踏の三年連続ヒューゴー賞受賞シリーズ
『第五の季節』続編登場

■感想
本書は『第五の季節』三部作の第二部です。
ついに「第五の季節」が訪れ、破局的な地殻変動が地球を襲います。
地殻を操ることができるオロジェンである母エッスンが地下都市カストリマで奮闘する様子を中心に、同じくオロジェンである娘エッスンは父親に連れ去られ南極地方へと旅する様子が並行に描かれます。
地球と失われた月、石喰い、守護者、オロジェン、人間と役者が出揃うことで、種蒔き(伏線の張り巡らせ)は終わり、第三部での収束を期待させる内容です。
(THE OBELISK GATE by N. K. Jemisin, Copyright 2016. 2021年発行)

★★★

2026年6月17日水曜日

『赤い預言者』 オースン・スコット・カード

アメリカ軍と先住民インディアンとの闘争に巻き込まれる主人公。インディアンのリーダーである静と動の兄弟のキャラクター造形が魅力的

■裏表紙より抜粋
特別な力を授かって生を受けたアルヴィンは、ある日インディアンの預言者テンスクワタワに出会い、その兄タクムソーとともに旅に出発することになった。

■感想
本書は<アルヴィン・メイカー・シリーズ>の2巻です。
18世紀末のアメリカ開拓時代を舞台とした、SFではなくファンタジーです。
残念ながら3巻以降は未訳のため、アルヴィンの特殊な力はどう開花していくのか、活躍はこれから、というところで終わるのが残念です。
ただし、作者カードのキャラクター造形とストーリーテリングは相変わらず秀逸です。
とくに先住民インディアンのリーダーを務める兄弟は魅力的で、二人の動静に引き込まれていきます。
(RED PROPHET by Orson Scott Card, Copyright 1998. 1999年発行)

★★★


2026年6月13日土曜日

『奇跡の少年』 オースン・スコット・カード

18世紀末のアメリカ開拓時代を舞台とした、カード定番の「特殊な能力を持った少年の成長」ものだが、SFではなくファンタジー

■裏表紙より抜粋
18世紀末、北米大陸はヨーロッパ諸国の植民地として分割され、多くのアメリカ人が新しい土地を目指して西へと向かっていた。旅は危険に満ちていた。森には精霊が宿り、先住民が白人の頭皮を狙って潜んでいた。そんな森の奥深くで、特別な力を持った子供、アルヴィンが生まれる。

■感想
本書は<アルヴィン・メイカー・シリーズ>の1巻です。
7番目の息子の7番目の息子は特別な力を持って産まれる言い伝えと共に、主人公アルヴィンが産まれるところから10歳までが描かれています。
何度か主人公に厄災が降りかかりますが、特別な力によって回避されます。
それは、アルヴィンの命を狙う黒い影が近づいている証左でもあります。
話の舞台がほぼアルヴィン一家の家や山のため、主人公の冒険はまだ始まっておらず、2巻へのお楽しみとなっています。
(SEVENTH SON by Orson Scott Card, Copyright 1987. 1998年発行)

★★★


■アルヴィン・メイカー・シリーズ
・『奇跡の少年』(Copyright 1987. 1998年発行)
・『赤き預言者』(Copyright 1988. 1999年発行)
・『Prentice Alvin(Copyright 1989. 未訳)
・『Alvin Journeyman』(Copyright 1995. 未訳)
・『Prentice Alvin』(Copyright 1998. 未訳)
・『The Crystal City』(Copyright 2003. 未訳)
・『Master Alvin』(Copyright 2026. 未訳)

2026年6月9日火曜日

『アビス(上・下)』 オースン・スコット・カード

映画『アビス』を下敷きとした、2,000フィートの深海からの訪問者とのファーストコンタクトもの。カード定番の「特殊な能力を持った少年の成長」とは全く違う赴き

■帯より転載
『ターミネーター』『エイリアン2』のJ・キャメロンが挑む、人間とETの深海ドラマ!
超大作映画化! ’90年3月全国ロードショー
監督=J・キャメロン
主演=エド・ハリス メアリー・エリザベス・マストラントニオ マイケル・ビーン

■感想
監督あとがきにあるように、本書は映画の単なるノベライゼーションではなく、映像では描き切れない深海からの訪問者たちの行動の意義付けや彩りを加えている「小説」です。
ベースとなるアイディアやプロット、キャラクター造形はJ・キャメロンに依るもののため、カード定番の「特殊な能力を持った少年の成長」を期待すると、肩透かしを食らいます。
『2001年宇宙の旅』の映画と小説のような関係性を狙ったようですが、映像的表現の先行や映画らしいストーリー展開のため、カードのファンとしては微妙な本書となります。
(THE ABYSS by Orson Scott Card based on an original screenplay by James Cameron, Copyright 1989. 1990年発行)

★★★

2026年5月29日金曜日

『ワーシング年代記2 キャピトルの物語』 オースン・スコット・カード

カードのデビュー作「ライフループ」を含む、『神の熱い眠り』を補完する短篇集

■裏表紙より抜粋
銀河帝国の首都キャピトルでは、人工冬眠薬ソメックが人々の関心を集めていた。ソメックを投与された人間は数年ごとに睡眠と覚醒を繰り返し、ほとんど永遠に生き続けることができるのだ。だがこの偽りの不死が、大いなる悲劇をもたらすことになろうとは……?

■感想
本書は、<ワーシング年代記シリーズ>の2巻にあたりますが、1巻の登場人物を深掘りする短編6作品から成る「第一部 キャピトルの物語」と、1巻の原型となる短編3作品から成る「第二部 ウォーターズの森の物語」の二部構成になっています。
1巻と同様、SF的要素は「ソメック(冷凍睡眠)」のみで物足りなさを感じますが、カードの原点にあたる作品のため、エンダーの兄ピーターやビーンの宿敵アシルを思わせるキャラクターが登場することが面白さの一つです。
(THE WORTHING SAGA by Orson Scott Card, Copyright 1978,1979,1980,1982,1989,1990. 1995年発行)

★★



2026年5月28日木曜日

『ワーシング年代記1 神の熱い眠り』 オースン・スコット・カード

カードの原点といえる長篇。SF的要素は少なく神話的だが、後の作品『死者の代弁者』などにも通じる読後感

■裏表紙より抜粋
あらゆる苦痛が瞬時に癒され、不幸や恐怖の存在しない世界―少年レアドが暮らすその世界に突如<苦痛>が蔓延した朝、人々の前に不思議な男が現われた。男はジェイスン・ワーシング、伝説の神と同じ名の持ち主だった。

■感想
本書は、<ワーシング年代記シリーズ>の1巻です。
SF的要素は「ソメック(人工冬眠薬)」と「宇宙船」が少しばかり登場しますが、中世ヨーロッパの僻地を舞台としたような世界で、読後感は神話に近いです。
ジェイスン・ワーシングの一万五千年以上にわたる波乱の人生を、ジェイソンに語らせるのではなく、僻地の鍛冶屋の息子に夢を通じて伝達して書き留めさせる、という構造が面白さを最後まで持続させています。
また、カードの原点にあたる作品のため、後の作品のキャラクターの原型やストーリー展開を思わせる節があるのもファンとしては面白いところでもあります。
(THE WORTHING SAGA by Orson Scott Card, Copyright 1978,1979,1980,1982,1989,1990. 1995年発行)

★★★


■ワーシング年代記シリーズ
・『神の熱い眠り』(Copyright 1978,1979,1980,1982,1989,1990. 1995年発行)
・『キャピトルの物語』(Copyright 1978,1979,1980,1982,1989,1990. 1995年発行)

2026年5月13日水曜日

『ミネルヴァ計画』 ジェイムズ・P・ホーガン

並行宇宙をテーマにすることで、世界線A・B・・・が拡散・収束される


■帯より転載
『星を継ぐもの』シリーズ
堂々の最終巻!
シリーズ累計266刷154万部突破!
2024年創元SFオールタイム・ベスト読者投票第1位

■感想
本書は14年振り(日本では18年)に刊行された《巨人たちの星(星を継ぐもの)シリーズ》の5作目にして最終巻です。
本作は「並行宇宙(Bの世界線)のハント博士から本書の世界(Aの世界線)のハント博士へ通信が入る」ことから物語は始まります。
SFの面白さの一つに、異星人・文明などの地球以外の何かに遭遇する面白さがあると思いますが、並行宇宙とのファーストコンタクトは本書の世界線やメタ的視点の読者の世界線と近くにあり過ぎてしまい、一つの面白さを欠いているよう感じられます。
しかし、ホーガンのストーリーテリングの力は衰えてはなく、次から次へと新たな問題・解決・視点などが展開される面白さは健在です。
そして、冒頭にある「収束」がきちんと結末に回収されるのもさすがです。
(Mission to Minerva by James Patrick Hogan, Copyright 2005. 2024年発行)

★★★



2026年4月9日木曜日

『エネルギー救出作戦 SFショートショート』 堀 晃

ショートショート、短編集、エッセイの3部構成。ショートショートは古臭さを否めないが、短編集は今読んでも面白い

■帯より転載
星新一氏激賞!―SF界の異才が放つ最新傑作ショートショート集
ある日、大量のウランを搭載した宇宙船が行方不明になり、地球は世界的規模のエネルギー危機におちいった……。表題作のほか、「冥王星」「安楽死星」「月へ逃げた男」など全21篇収録!

■感想
本書は、地球のエネルギーをテーマとしたショートショート12篇、太陽系を舞台とした短編8篇、永久機関に関してのエッセイ1編から構成。
第一部のショートショートは、あとがきに「万能の科学者が語り手となる古典的アナログ的構成をとった」とあるように、わざと古臭い手法を取っているようですが、さすがに、1980年発行から46年も経ると古臭さを否めません。
しかし、第二部の太陽系を舞台とした短編8篇は、これぞ堀晃というべき美しい宇宙、イマジネーションを掻き立てます。2026年現在でも十分面白いです。
第三部は、ショートショートの1篇で扱われている「永久機関」を考察したエッセイです。
(1980年発行)

★★★

2025年8月20日水曜日

『地球環』 堀 晃

喜怒哀楽のスイッチが切れているかのような淡々とした語り口に静かに嵌っていく。<情報サイボーグ>シリーズ全12篇

■帯より転載
情報サイボーグシリーズを
収録したハードSFの
名作全12篇!

■感想
「恐怖省」1970年、「地球環」1976年、「最後の接触」1976年、「骨折星雲」1978年、「宇宙猿の手」1980年、「猫の空洞」1980年、「蒼ざめた星の馬」1980年、「過去への声」1981年、「宇宙葬の夜」1981年、「虚空の噴水」1994年、「柔らかい闇」2000年、「バビロニア・ウェーブ」1977年、<情報サイボーグ>シリーズ全12篇が収録された一冊です。
最後まで読み終えた後、最初の「恐怖省」を読み直すのをお勧めします。
ちなみに、本短編集に収められている「バビロニア・ウェーブ」は「他の作家に先を越される前に、とりあえず基本的なアイデアだけでも記録に残しておこうとと思い、長篇の一場面というスタイルで発表した」と長篇『バビロニア・ウェーブ』のあとがきにも書かれているので、ぜひ長篇となった形(ため息をつくほど、深淵なる美しい宇宙が無限に広がっていくイマジネーション)も読み比べてほしいです。
(2000年10月文庫化)

★★★★★